題名 おひさま

 キーンコーンカーンコーン…。
 きょうしつじゅうに、チャイムがなりひびきました。ワイワイ・ガヤガヤとあちらこちらで元気のいいこえがきこえはじめました。じゅぎょうのおわりのあいずです。
 まだ、一ねんせいになって、2かげつしかたっていないきょうしつのなかは、やすみじかんでも、じゅぎょうちゅうでもあっちへいったり、こっちへいったりといそがしくうごきまわる子がおおいので、せんせいもまだまだてんわやんわです。
「さあ、できた人は、もってきてくださ〜い」
 とても大きなこえでせんせいがそう言うと、みんな足をバタバタさせながら、できたものを持っていきました。
 うしろの方から、はしってきたとおるくんがしゅんくんのそのかみをのぞきこむと
「あっれーっ、しゅんくんどうしたの?」
 ひとりポツンとすわっているしゅんくんは、まっしろいかみをかくすように、へへっとわらってそのかみをうしろへかくしてしまったのです。
「せんせい〜っ、また、しゅんくん、かいてないよ〜」
 だれかがせんせいにしんせつにおしえてあげると、しゅんくんはそのしろいかみをビリビリっとやぶいてしまいました。
「しゅんくん、どうしてやぶいちゃったのかな?」
 せんせいがやってきて、しゅんくんの目のたかさまでしゃがみこんで言いました。
 でも、しゅんくんは、だまったままです。
 しゅんくんのつくえの上には、クレヨンのおれたかすがたくさんちらばっていました。せんせいはとてもこまったようすで、しゅんくんの頭をなでると、しゅんくんは、まっかのなかおをしてなきはじめました。
「じゃあ、しゅんくん、あとでせんせいといっしょにおはなししてみようね」
 そしてせんせいは、はやくせんせいにみせなきゃとじゅんばんを気にしながら並んでいるみんなのいるそのばしょへもどっていきました。

 かえりの会がおわるとすぐにせんせいはしゅんくんをよびとめようとしました。でも、おともだちとたのしくあそんでいるようで、せんせいのこえなどちっとも耳にはいりません。
「しゅんくん、しゅんくん」
 やっぱりへんじがありません。そうこうしているうちに、せんせいのまわりにほかのクラスの子があつまってきたりして、とても、しゅんくんとはなしをできるようなじょうたいではありませんでした。
「せんせい、これなあに」
「そうね、そうね」
 ほかの子の話をそらみみでききながら、しゅんくんのことばかり気にしていました。
 そのうちに、しゅんくんは家にかえってしまったのです。
 しばらくして、みんなきょうしつから出ていくと、せんせいはしゅんくんのつくえの所に来て、どうぐばこを出してそれをあけてみました。
「あらら」そうつぶやくと、せんせいはふうっ〜とためいきをつきました。クレヨンはみんな折れて散らばっていたのです。もちろん、クレヨンの形すらわかりません。
 せんせいは、なまえふめいのおとしもの入れのはこの中から、たくさんのクレヨンをさがし出すと、一本一本ていねいにそろえながら、しゅんくんのクレヨンの箱に入れてあげました。

 夜になりました。
 せんせいは、しゅんくんのいえにでんわをかけてみることにしました。
 ジリリリリ…ジリリリリ…
「はい、さいとうですが」
 しゅんくんのおかあさんは、すぐにでんわに出てくれました。そして、もう学こうがはじまって2か月になるというのに、えがどうしてもかけないしゅんくんのことをはなしま
した。
「そうですか、でも、ようちえんのときは、よくかいていましたけど。ちょっと、うちの
子とはなししてみます」
 でんわがきれると、おかあさんはちょっとこわいかおで「しゅん、おいで」とこえをは
りあげてよびました。

 でも、しゅんがおかあさんのところへきたときには、もうやさしいひょうじょうのおか
あさんにもどっていました。
「いま、学こうのせんせいからでんわがあってね、どうしてもえがかけないから、どうしたのってしんぱいしてたけど」
「うん、あしたはかくよ」
 そう言って、しゅんは自ぶんのへやへいってしまいました。これでは話になりません。
おかあさんも、ちょうど見たいテレビがあったので話は、それでおわってしまいました。

 次の日になりました。
「おはよう、おはよう」
「おはよう」
 つぎつきと、おともだちがやってきました。しゅんくんもいつものにこにこがおで、きょうしつにはいってきました。
 しばらくするとせんせいもやってきました。
「おはよう」
「おはようございま〜す」
 あさの会がおわると、きょうの一じかんめはちょうどずこうのじかんでした。
「みなさん、きょうは、おてんきもいいので、そとでえをかいてみましょう」
「やったー」
 クラス中がわっとにぎやかになりました。げたばこへいちもくさんではしっていく子、
クレヨンのばしょがどこかといっしょうけんめいつくえの中をさがしまわっている子、でもその中でしゅんは、とまどいぎみにすわっていました。
「さぁ、しゅんくん、いこう」
 せんせいがやってきて、しゅんくんのかたをそっとおしてくれました。
「でも…」
「ほら、みんな、いっちゃったよ」
 せんせいがそう言うと、しゅんくんはうなずいてとぼとぼとあるきはじめました。
 ほかのみんなは元気なようすではしりまわり、わたしはどこにすわろうかしらとあっちへいったりこっちへいったりしていました。しゅんくんは、ひのあたらないばしょをえらぶと、せんせいが
「ほら、あっちへいこう、おひさまがポカポカしてきもちがいいよ」
と、しゅんくんの手をひいて言いました。

 みんな、すわるばしょがきまると、クレヨンとかみをだして、なにかをかきはじめました。
「しゅんくん、どうして、みんなとおなじようにかかないの」
 せんせいがたずねると、しゅんくんは
「だって、めんどくさいもん」
といいました。
 せんせいはすこしざんねんがっていました。とてもキラキラしたしゅんくんのひとみが、いっしゅんなきたいようにおもえたのです。
「ねえ、しゅんくん、じゃあちょっとクレヨンだしてごらん」
 しぶしぶそれをさしだすと、せんせいがそのクレヨンにあやまりはじめたのです。
「ごめんね、こんなにおそとに出たがっているのに、出してあげられないでごめんね」
 それは、とってもふしぎなこうけいでした。
しゅんくんは、びっくりしてすこしだけわらいました。
「ほら、こんなにまっしろいかみじゃさびしいわよね。きっとしゅんくんのこころのなかは、このかみのように、まっしろなのかな」
「えっ?」
「せんせいはね、このしろいかみの中は、きみたちひとりひとりのだいじなこころだとおもってるのよ」
「えっ、こころ?」
「そう、たのしかったらとてもあかるくはずんだえがかけるとおもうし、かなしかったらとてもくらい、こわいえになるものね。せんせいは、しゅんくんのこころの中もみたいな」
「……」
「ねえ、ひとのかおって、どんなかたちしてるとおもう?」
「まる・さんかく・しかく…」
 おともだちをゆびさしながら言いました。
「そうだよね。じゃあ、せんせいのかおはどんなかお」
 そういって、ちょっとおもしろいかおをしてみせると、しゅんくんは「ガハハ」とこえを大にしてわらいました。
 そのこえにびっくりして、みんなやってきました。
「あーっ、しゅんにだけ、ずっるーい」
 みんなも、まねておもしろいかおをやってみました。しゅんくんも、クラスのみんなもおなかがいたくなるくらいわらいました。
「ねえ、せんせいっ、このかお、かいてみようよ」
 だれかがそういうと、みんなふたりひとくみになって「あっぷっぷ〜」とはじめました。わらってえがなかなかかけないこもいましたが、それでもとてもたのしそうでした。
 かんじんのしゅんくんは、みさとちゃんといっしょにあっぷっぷ〜をしながら、かいています。
 せんせいはそれをのぞきこみながら、
「ほうら、みさとちゃんがかいたしゅんくんののかおは、とてもたのしそうなかおだよ」
 そういうとしゅんくんもまけずにかきはじめました。
 ボキッ、ボキッ…あまりつよく力をいれてしまうのでしゅんくんのクレヨンはおれてばかりです。
「しゅんくん、かたの力をぬいてごらん。そおーっとかけばいいのよ」
 やさしくせんせいがおしえてあげると、しゅんくんはゆっくりゆっくりかきはじめました。
「じょうずだよ」
 みんなも、しゅんくんのまわりにあつまってきました。
 てれながら、なんとかみさとちゃんのかおをかくことができました。まぶしいたいようがみさとちゃんをきもちよさそうに、てらしています。
 きいろいクレヨンを手にとるといっきにおおきなまるをかきはじめました。
「これなあに」
 となりにいた、ごろうくんがたずねると
「うん、みさとちゃんはおひさまのしたで、キラキラしてるから」
しゅんくんは、そうこたえました。
「やったー。できた。」
 たいようをかきおえると、にっこりわらってせんせいにそのかみをさしだしながら、
「あのねっ、せんせいっ、クレヨンありがとうね」
というと、ちょっぴりしゅんくんはてれたのか、教室の方に走っていってしまいました。

おわり

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